1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/11(月) 00:16:42.13 ID:hbzSfMhb0
男「お、これ取れそう」ウイーン…男「ここか……ん?」少年「……」ジー
男「(すっげぇ見られてる……)」
ゴトン
パラパッパー
少年「わあ……」
男「(すっげぇキラキラした目されてる……)」
※このスレはフィクションです
ゴトン
パラパッパー少年「……すごい」男「あー、そこの君。欲しいならこれやるよ」
少年「え」
少年「……」ダッ
男「あっおい……行ってしまった」
男「怖がらせちゃったかなぁ」
男「新しいプライズ出てるじゃん! 設定辛いだろうけどこれは欲しい……」
男「散財覚悟でやるか」ウイーン…
スカッ
ウイーン…
スカッ男「(やっぱアーム弱いな……ん?)」少年「……」ジー
男「(またあの子だ)」
少年「……」
男「やりにくい……」
ウイーン…
スカッ
ウイーン…
少年「……左のツメ」男「へ?」
少年「もうちょっと右に行ったら……そっちに落ちるかも」
男「お、おう」
ウイーン…
カタッ
男「お、動いた」
ウイーン…
カタッ
ウイーン…
カタッ
男「繰り返してけば落ちそう」
ウイーン…
カタッ
ゴトン
パラパッパー
少年「やったぁ!」男「すごいな、君の言う通りにしたら落ちたよ」
少年「……」モジモジ
男「(また怖がらせた……いや照れてるのか?)」
男「これ、あげようか?」
少年「……」フルフル
男「いらないか」
男「ゲーセン、よく来るの?」
少年「……」フルフル
男「(とことんしゃべらないなこの子)」
男「でも、前も会ったよね」
少年「……」
男「(背丈の感じからして、小学校の高学年か?)」
男「学校、この近く?」
少年「……」ダッ
男「あっ」
男「また逃げられた……自信なくすなぁ」
教授「このときの児童の心理は~」男「教育心理学の授業って退屈だよな」
友人「あの教授は特になあ」
男「実際教育学やったって、本当に子どもとコミュニケーション取れるとは限らないし」
男「(使えるなら、あの子に二回も逃げられるわけねぇし)」
友人「ま、聞くだけ無駄にはならないだろ」
教授「話を聞いて欲しい、という児童なりのサインであるので~」
ゴトン
パラパッパー少年「……」男「(また出会ってしまった)」
男「(しかしこの子も飽きないよなぁ、ただ見てるだけなのに)」
男「(ゲームやってるとこ見たことないわ)」
男「……ねぇ」
少年「……」
男「あーその、ゲームやらないの?」
少年「……」コクリ
男「そうか……」
教授『話を聞いて欲しい、という児童なりのサインであるので』
男「……」
男「どうしてやらないのかな?」
少年「お金、ない」
少年「それにもし取れても……お母さんに見つかるから持って帰れない」男「あー、なるほど」
男「(それも一理あるな、厳しい家庭なんだろうか)」
男「(ん? てことは本当はゲームやりたいってことなのか?)」チャリン
ウイーン…
カタッ
ウイーン…
ゴトン
パラパッパー男「あー早く取れすぎてプレイ余ったわー」
男「やる?」
少年「え……」
男「もし取れたら俺にちょうだいね」
男「あっ店員さん! ちょっとこのプライズ移動してもらえますか?」
少年「……」
ドラマは恋愛ばかりだしアニメはヒロインがいないとホモアニメにされるし
ゴトン
パラパッパー男「うっわめちゃくちゃ上手い」少年「えへへ……」ウイーン…
ズリズリズリ
ゴトン
パラパッパー
男「(あの位置から引きずって落としただと)」
男「恐ろしい子」
少年「やった」キラキラ
男「うまいうますぎる」
男「(しかも楽しそうだ、すごく)」
少年「はい」
男「ありがと(結局三つも取ってしまった)」
男「部屋に飾るよ」
少年「楽しかった」男「いやいやハハハ……ん? おじさん?」
男「いや俺まだ大学生だから! 21だから! お兄さんって呼んでよ!」少年「えっ」
少年「だっていつもここにいるから」男「いつもはいないよ、授業がないときだけ!」
男「それ言ったらお前だっていつもいるじゃん!」
少年「そ、れは」
少年「……」ダッ
男「あっ! ……またやっちまった」
男「結局逃げられたが、それからというもの」ウイーン…
少年「もっと右、もっと」
ゴトン
パラパッパー
少年「わあい」
男「ちょっとは懐いてくれたのかな」
男「しっかしいいセンスしてるよお前」
少年「へへ」
男「(お、照れた。かわいいな)」
男「お前、学校どこだ? ○○小学校か?」
少年「え?」
少年「……僕、中学生」
少年「小学校のときから身長伸びたのに」男「いやほんとごめん……じゃ、じゃあ何年生?」少年「一年生」
男「(今六月だろ? ほとんど小学生じゃねえか!)」
男「でもまぁ、中学生か。そうかー」
男「お兄さんな、大学で先生になるための勉強してるんだ」
男「分からないところあったら聞きにこいよ?(ただし文系教科に限る)」
少年「お兄さんが先生? うそだー」
少年「ゲームセンターにいる先生なんて見たことない」
男「ぐ、それは……」
教授「この年頃の児童は~」男「ちゃんと聞けば、教授もいいこと言ってるな」
友人「どうしたんだよお前」
男「教師の卵としての自覚が芽生えた」
男「やっぱ実際に子どもと接するのって大事だよな」
友人「異論はないけど……何かあやしいな。実習とかじゃないよな?」
男「まあな(ゲーセン、とは言いにくい)」
男「お、いたいた……あれ?」少年「……」男「学ラン着てる……学校帰りか? ていうか本当に中学生だったんだ」
男「よ、どうしたんだ制服で」少年「……学校、行きたくない」
男「えっ」
男「(これは……児童心理学の出番なのか?)」
男「どうした? 俺でよかったら聞くよ」
少年「……ここじゃやだ」
男「あ、そうかゲーセンじゃ嫌だよな」
男「移動するか」
少年「……」グビグビ男「公園のベンチで缶ジュース。何か貧乏たらしくてごめんな」
少年「ううん」
少年「……学区外だから嬉しい」
男「そうか」
少年「……僕、部活やってないの」
少年「お母さんが塾に行けっていうから」
少年「だから学校に友達いないの」
男「そうか……(ガチで深刻な悩みだ、ええとこれはええと)」
男「ん? じゃあいつも私服でいるのは?」
男「(……しまった)」
少年「……塾はレベル高くて、僕ついてけない」
少年「塾では一番バカだし、塾も行きたくない……」
男「あーそれで私服でゲーセンか……」
少年「聞いてくれてありがとう」
少年「すっきりした」
男「おう……じゃあな(あんま役立ってないけど)」
男「……はぁ、俺使えないなホント」
教授「ただ傍にいるというだけでも児童の心は安定します」男「ほうほう」教授「一番駄目なのは児童のテリトリーに土足で踏み込むことです」
教授「また、それらしい一般論などこちらの意見を押し付けるのもタブーです」男「そうか……」
友人「いきなりがり勉になったな」
男「(あれからまた、こいつは自分のことを話さなくなった)」
男「(安心したような、心配になるような複雑な気分)」ウイーン…
スカッ少年「これだめだね」
男「相変わらず勘がいいな
男「(案外、一緒にゲームするだけでもいいのかも)」
男「(こいつも笑ってるし……きっと大丈夫だろう)」
男「さすがに駄目人間みたいだけど」
男「……今日はあいつ来なかったな、まあ毎回会ってるわけじゃないしいいんだけど」ウイーン男「うっわ暗くなってるし雨まで降ってる、傘持ってねえのに」
男「ん?」
男「(あのしゃがみこんでる人影……)」
男「お前、何してんだよこんなとこで!」少年「あ……お兄さん」
男「びしょ濡れじゃないか、屋根もないとこで座ってるから……」
男「あーあ、制服なのに」
少年「……ごめんなさい」
男「いや、謝ることじゃ……(顔濡れてる……雨、だけじゃないな)」
男「お前、泣いてたのか?」
少年「……」プイ
少年「ねぇ……僕が取った景品、お兄さんの家にあるんだよね」
少年「見に行きたいな」
男「へ?」
男「着いた着いた。お入り」少年「お邪魔します」男「(連れてきてしまった……でもあそこで放っておくわけにもいかないし)」
男「とりあえず親御さんに連絡しとけ、心配するから」
少年「……いいよ、出ないし」
男「仕事中か? なら留守電に」
少年「ううん、浮気中」
男「はい?」
少年「お父さんは単身赴任でいないし、お母さんは旅行に行った……浮気しに」
少年「僕がいても、何も気にしないで電話とかしてるし」
少年「おかしいよね、自分は子どもに勉強とか押し付けてくるくせにさ」
男「……ああ、おかしいな」
男「(こういう場合どういう言葉をかければいいんだ……)」
少年「でもいいんだ、気にしてないから」
男「……とりあえず、風邪引くから着替えなさい」男「ハンガーにかけて、エアコンドライっと」ピッ男「果たして明日までに乾いているかどうか」
少年「乾いてなくてもいいじゃん、金曜日だよ?」
男「でもな、明日にはお前帰るだろ?」
少年「帰りたくない、一人だもん」
男「うっ(またやっちまった)」
男「と、とりあえず風呂貸してやるからシャワー浴びて来い、な?」
男「着替えは俺の貸してやるから」
少年「うん」
トタトタ
男「はぁ……ていうかこの状況、ちょっとまずいんじゃないか?」
男「いくら顔見知りとはいえ、親戚でもない中学生を泊まらせるとか」
男「でもダボダボの服着せて帰すわけにもいかないし」
男「親の迎えもダメ、俺が送るのもダメ……あー免許取っときゃよかった」
男「……着替えとタオル出すか」
男「体格の差ってもんがある」少年「お兄さん背ぇ高いもんね」男「まぁな、お前には余裕で勝ってるぜ」
少年「大学生と中学生じゃしょうがないもん」
少年「大人気ないことやめてよ」
男「あ、拗ねた」
男「まあ我慢してくれよ。じゃ俺風呂入ってくるから適当にくつろいでて」
パタン
男「あーぬくいぬくい。風邪引く寸前だったわ」
男「……あいつ、何か複雑な環境で育ってるんだな」
男「親の浮気に勉強に人間関係に……そりゃ塾サボってふらつきたくもなるわ」
男「俺にできること、何かねぇかな」
男「あがったぞー」少年「ねぇ、あの漫画読んでいい?」
男「おー読め読め。その間に何か飯作ってやる」
男「(弟みたいでかわいいな、俺弟いないけど)」
少年「いただきます」
少年「……おいしい」
男「だろ? レトルトだけど」
男「腹いっぱいになったか?」
少年「うん……眠くなってきた」
男「やることもないし、早めに寝るか」
男「布団そこにあるから、適当に敷いて歯磨いて寝ろ……歯ブラシの予備あったっけかなぁ」
男「あったあった、ほら」
少年「ありがと」
シャコシャコ
男「俺は片付け、っと」
男「一晩くらい床で寝たって全然大丈夫だって」少年「そんなのダメだよ、風邪引いちゃう」
少年「一緒に寝ようよ」男「……あー、それはさすがにちょっと」
少年「僕と一緒じゃいやだ?」
男「いや、そうじゃなくて……ああもう、分かった!」
モゾモゾ
男「いいか、このことあんまり人に言うなよ?」
男「今は声掛けただけで不審者になる時代なんだ……あれ、俺もう充分不審者か?」
少年「違うよ、だって僕いやじゃないもん」
男「そ、そうか。なら良かった」
男「消すぞ」
パチン
男「(ゲーセンでたまたま知り合った中学生が、泊まりに来るとは)」
男「これなんてエロゲ」少年「?」男「いや気にするな」少年「そう……」
モゾモゾ
男「!?」
少年「お兄さんあったかい」ピトッ
少年「僕の手、冷たいでしょ」
男「」
男「いやいやいやいや」
少年「何か居心地良くて安心する。なんでだろ」男「さあ……(えー何この展開まじでエロゲじゃん)」
男「(恋人いない暦=年齢の俺にはちょっとした苦行)」
男「(相手は男で中学生、相手は男で中学生)」少年「不思議。お母さんと手を繋いだ記憶もないのに……」
少年「誰かと仲良くした思い出も全然ないのに……」
少年「ずっとこうやってくっついてたい……僕、さみしいのかな」男「……」
男「気が済むまでくっついてればいいだろ」
少年「お兄さんって優しいよね」
少年「……僕、もっとお兄さんと一緒にいたい」ギュ
男「え、ちょおま」
男「(抱きつかれた……けど振り払うなんてできねぇ)」
少年「お兄さん、僕、さみしい」
少年「どうやったらさみしいのって治るの?」
少年「……」
少年「お兄さん、キスしたい」男「え?」少年「僕、まださみしいから……ねぇいいでしょ? お願い」男「でもそれは(越えちゃいけない壁だ……)」
男「(ああ、でも)」
少年「お兄さん、お願い……」
男「そういうは、大人になってからな」少年「……でも、僕」男「ちょっと不安定になってるだけだって」
男「朝起きたら、また違う考えになってるから」
男「気の迷いで、そんなことしたら後悔するから……な?」少年「……」
少年「分かった……ごめんなさい」
男「……」ポンポン
男「(いいんだ、これでいいんだ)
まぁ落ち着けよ
チュンチュン男「はい、制服。乾いてよかったわ」
少年「……うん」
男「朝飯食うか?」
少年「ううん……僕もう帰る」
男「ああ、じゃあ……」
パタン
男「……ふぅ」
男「あいつ、泣きそうな顔してたな」
男「でも、これでいいんだ。きっと情緒不安定だったからあんな大それたこと言っただけで……」
男「あのまま流されてたら絶対後悔してた。あいつも俺も」
男「これで……いいんだ……」
男「あれからゲーセンに来なくなったな……だから会わなくなった」
男「はぁ」ウイーン…
ゴトン
パラパッパー男「……つまらん」
男「あいつの悩み、解決したかな」
男「してないだろうなぁ……」
男「俺は結局、あいつのこと助けてやれなかった」
男「それどころか、名前も学校も何も知らない」
男「……一体俺は、何なんだろう」
男「教育学を学んでも実習をしても、あいつ一人助けられないなんて」
男「……俺は、本当に正しかったのか?」
もう五年も前の話だ。いくら考えても、答えは分からず終いのままだった。
男「失礼します」ピッ男「くっそー明日かよ、違う取引先との予定もあるのに」
男「ま、仕方ないか。ビジネスマンってそんなもんだよな」
男「もし教師になってたら今頃……いや、考えるのは辞めたんだった」
男「就職うまく出来てよかったわほんと」
男「……にしても、まさか大学の近くに転勤するとは思わなかったわ。何たる偶然」ワーワー
キャイキャイ男「相変わらず、賑わってるような過疎ってるような……微妙な土地柄だな」
男「でも昼間なのに高校生多いな、テスト期間か?」
男「あれは○○高校の制服で、あっちは××高校……△△高校まで」
男「さすがに高校生まみれだろうな……でも今日しか余裕ないし」
男「……」ワーワー
パラパッパー
ガヤガヤ男「来ちゃったよ……うわめちゃくちゃホーム感あるわ」
男「あのUFOキャッチャーもそのまま残ってる。懐かしい」
男「やってみるか」ウイーン…
ゴトン
パラパッパー
男「よっしゃ腕は落ちてないみたいだ」
男「……けどやっぱりつまんねぇな」
キャーキャー
ワーワー
男「しっかし高校生は元気だな……」
女子「これかわいーほしー!」男子「いやこれは無理っしょ、でかいし」
女子「えー」
男「(いや、無理ではないな……)」
「見せて? んー無理じゃないと思うけど」
「タグが見えてるじゃん、そこにひっかければ……」
「やっていい?」
女子「えっじゃあ私お金出すから、取れたらちょうだい!」
「いいよ」
ウイーン…
ズリズリ
ゴトン
パラパッパー
女子「キャーすごーい!」
男子「マジかよ……お前天才だな!」
キャーキャー
男「一発でタグにかけるとか上手いなー」
男「よっぽど勘とセンスがいいんだろうな、あの子」
男子「じゃあまた明日な」女子「ばいばーい」
ザワ…ザワ…
男「人減ってきたな、お勉強の時間か?」
男「俺もそろそろ帰るか……その前に一回」
ウイーン…
ゴトン
パラパッパー
男「あ、これ解放台だ……もっかい」
ウイーン…
ゴトンゴトン
パラパッパー
男「……ん?」
「……」ジー
男「(めっちゃ見られてる……男子高生にめっちゃ見られてる)」
男「この台やりたいの? 代わろうか?」「あ、いや俺は……見てるだけで」
「金も使っちゃったし、家に持って帰っても置くとこないんで」男「そうか(この理由……どこかで聞いたことあるような)」
「……あの、もしかして」
少年「前に会ったことありますか?」
少年「うわ懐かしい……そっか、五年も前か」男「いやーまさかここで会うとは……そうか、お前高校生なのか」
男「大きくなったな……」少年「お兄さんの身長越したかもね」
少年「俺、最近成長期だし」
男「(一人称変わってる……本当に成長したんだな)」
男「分からなかったわ、だってお前全然印象違うんだもんな」
男「前より饒舌になってないか? 人見知りが治ったっていうか」
男「それにさっき、友達と一緒にゲームやってただろ!」
少年「まあ俺もいろいろあったからね」
少年「せっかく会えたんだしさ、久しぶりに一緒にゲームしようよ」男「あ、ああそうだな。よしお前の成長っぷり見せてもらおう」ゴトン
ゴトンゴトン
パラパラパラッパー
男「……めちゃくちゃ上手くなってるじゃんか」
少年「へへ、五年もやってるからね」
少年「お兄さんは?」
男「俺はめっきり……いいんだよ、仕事が忙しい証拠だ!」
少年「へえ、仕事か。かっこいいね」
少年「前は大学生だったんだよね……」
少年「カフェに格上げされたね」男「俺も一人前のサラリーマンだしな」少年「一人でゲーセン来るくせに」
男「それは言うな」
少年「あはは、面白い」
男「……お前、本当に変わったな」
男「前より明るくなったみたいで、安心したよ」
少年「……そう?」
男「それにその制服、△△高校だろ? 頭いいじゃんか」
少年「そうかな? ありがとう……お兄さんに褒められると嬉しいよ」
少年「ってあれ? お兄さん? もうおじさんじゃない?」
男「このやろう」
男「……すっかり立派になっちゃって」
男「勉強もできて友達もいて……親は分からないけど、あの時悩んでたもの結構解決したのかな」
男「よかった、本当に」テクテク少年「……」
少年「もしもし。あ、おじさん?」
少年「今日? 今日は家に帰らないといけないんだよね」
少年「明日ならいいよ。いつもありがと」
男「忙しいな、本当にゲーセン行けてない」
男「ていうかあいつも高校生なんだから、携帯くらい持ってるよな……連絡先聞けばよかった」
男「……本当に、よかったよ。あいつが明るくなってて」女子「少年くん、昨日はありがとう!」少年「ううん、欲しいのあったらまた言って」女子「うん!」
男子「……お前モテモテだな、うらやま」
男子「今度俺にも教えてよ」
少年「いいよ。もともと俺も教えてもらった技術だし」
少年「じゃあ明日、お前んち行く前にゲーセン行こうよ。今日お金もらえるし」
男子「……お金って、また」
先輩「よう、少年」
少年「あ、先輩。どうしたんですか二年生の教室までわざわざ」
先輩「お前の予約に決まってるだろ? いつなら空いてる?」
少年「えーっと、21日か23日ならいいですよ」
少年「朝までなら27日かなぁ」
男子「すっげー! こんなでかいぬいぐるみも取れるんだな!」少年「コツがあるんだよ、コツが」男子「でもお前が取ったのに、もらっていいのか?」
少年「いいよ、あげる」
男子「サンキュ、じゃあこれに掛かった200円分俺がおごるよ」
少年「いいのに……あ、お兄さん!」
男「お、お前かー奇遇だな! ゲーセン帰りか?」
少年「うん、今こいつと一緒に行ってきてさ」
少年「これから男子の家に行くの。テスト勉強一緒にやるんだ」
男子「こ、こんにちは……おいお前お兄さんいたのかよ、聞いてないぞ」
男「あ、いや実の兄貴とかじゃないから」
男「えーと……ただの呼び名っていうか、な?」
少年「そうそう、本当の兄弟だったら『お兄さん』なんて言わないよ」
男子「……そう、か」
男子「……」
男子「……なあ、お前さ」少年「なに?」男子「……噂になってるよ、その」
男子「お前が体売ってるって」
少年「ふーん」
少年「まあ事実言われたって痛くもないよね」
男子「本当、だったのかよ。その噂」
少年「え? 知らなかった?」
少年「ていうか言わなかったっけ?」
男子「信じられるか、んな事」
男子「なあ辞めろよそんなこと。お金に困ってるわけじゃないんだろ?」
少年「お金じゃないんだよね、問題は」
少年「……家に帰りたくない」
少年「父さんは海外にいるのに、離婚したはずの母さんがヒステリー起こして押しかけてくる家なんて」
面白くて読んでしまう!
親父「それより早く行こうか。いい部屋押さえたからさ」少年「おじさんは太っ腹だね、俺嬉しいよ」親父「少年君のためだからね、これくらい安いよ」
親父「君を迎えるのにチンケなホテルじゃ失礼だしな」
少年「そう言ってくれるの嬉しいな」
先輩「少年、俺だけじゃなくて友達も誘っていいか?」
少年「いいよ、大勢の方が楽しいし」
先輩「お前本当に物好きだな、そこがいいんだけど」
先輩「心配するなよ、ちゃんと人数分払うからさ」
少年「いいよ、お金なんて」
少年「あ、次の日小テストあるから勉強教えてよ」
先輩「俺に聞くのかよ、落第するぜ?」
少年「あはは」
男子「(そこらへんのおっさんだけじゃなくて、学校の先輩まで手出してるなんて)」
男子「(しかもあんな若い『お兄さん』までいるなんて)」少年「男子、どうした?」男子「……なんでもない」
男子「(俺が言っても、駄目だろうな)」
男子「(関係ないって言われたらそれまでだ)」少年「あ、今日ゲーセン行こう。お兄さんいるかも」
男子「……俺も行く」
少年「お兄さん、前みたいに定期的に来るわけじゃないからなぁ。いるかなぁ」
スカッ男「狙いは合ってるはずだけどなぁ」少年「それ、中身わざと偏らせてるんだよ」
男「お、お前かー久しぶりだな」
男「偏らせてるって、何か詰めたりしてんのか?」
少年「うん、重心がずれてるの」
少年「だから反対を押せば……」
ウイーン…
カタッ
少年「ほら動いた」
男「ほーすごいな」
男「お前ほんと技術身に付けたな」
少年「お兄さんのプレイ、じっくり見てたから」
男「謙虚だな。よしあと6回で落としてみせる!」
男子「(随分仲良さそうにしてるな)」
少年「……お兄さん」男「どうした?」
少年「俺が小学生のころ、ゲーセンって特別な場所だった」
少年「行きたくても行けない、すごく遠い場所」
少年「中学に上がって、塾に行く途中にこのゲーセンがあって……」
少年「初めて入ったときはすごくドキドキした。悪いことしてるみたいだった」
少年「でもお兄さんがUFOキャッチャーしてるの見て、すごく楽しそうって思ったんだ」
男「……そうだったのか」
少年「見てるだけで楽しかった。けどお兄さんがプレイさせてくれた」
少年「もっともっと楽しくなったよ」
少年「お兄さんにとっては珍しくもないことでも、僕には一生の思い出で……」
男「(こいつ、そんなこと思ってたのか)」
男「(確かに最初は、ただじっくり見てるだけの子どもだとしか思ってなかったな)」
男「懐かしいな、五年前の話」
少年「よかった、忘れられてなくて」
男「忘れるわけないだろ」
お前らケツこっちむけて
男「取れた」少年「さすがお兄さん、4回で取ったね!」
男「お前のアシストのおかげだよ」
男「っておい、一緒にいた友達はどうした」
少年「え? あれ本当だいない……男子ー!」
男子「呼んだか? ごめんちょっと知り合いがいて」
男子「(じっくり見てたとはいえない)」
男「暗くなってきたし、そろそろ帰りなさい」
男「高校生とはいえ夜遊びは危ないからな、危険な目にあってからじゃ遅い」
男子「え?(夜遊びって、この人少年が何してるか知ってるんじゃ……)」
少年「あはは、お兄さん先生みたい」
少年「そういえば学校の先生になろうとしてたんだよね?」
男「あ、ああ……まあそれはいいだろ」
男「気をつけて帰れよ、友達の君もな」
少年「うん、じゃあね。また会おうね」
少年「男子もまた明日」
テッテッテ
男子「……あの」
男「それから仲良くなったけど、すぐに会わなくなって……この前たまたま再会したんだ」男子「じゃあ、少年の客ではないってことですね?」
男「客?」
男子「……実は」
男子「かといって誰かに相談するのも、少年が白い目で見られたらって思うと……」男「うん、ありがとう。俺に話してくれて助かったよ」
男「俺はあいつのこと変な目で見ないから安心しなさい。約束する」男子「……お願いします。あいつ、家に帰りたくないってしょっちゅう言ってて」
男「分かった。俺もあいつを助けられるように頑張るよ」
男子「はい……では、失礼します」
男「……」
男「なんだよ……この結末」
男「あいつ全然救われてないどころか、さらに深刻になってたんだ」
男「それも知らないで、何が『よかった』なんだよ……俺は……」
少年「……」ウツラウツラ男子「少年、起きろよ」
少年「……あ、男子。おはよう」
少年「昨日寝てなくてさ」
男子「……」
男子「お前、お兄さんと話してこいよ」
少年「え、何で? ていうかどうして男子がお兄さんと?」
男子「お前のこと、お兄さんに教えたんだ」
男子「頼むから、もうやめてくれよこんなこと」
少年「お兄さんに言った? それちょっと困ったな……」
少年「……」
男「ひとまず何か頼め」少年「……話って、ここでするの?」
男「嫌なら変えるか? どっちにしろ、せっかくだ。何か飲め」
少年「お兄さん、何か怖いよ」
少年「怖い話なら俺、いやだよ」
男「大丈夫だ、怒りもしないし怖がらせもしないから」
男「ちょっと踏み入った話なだけで」
少年「前の部屋よりずっと広い」男「いちおう社会人だしな、学生と同じ部屋じゃ格好つかないし」
男「そこらへん座っとけ」少年「……そわそわするな、昔のこと思い出すよ」
少年「あの日、すごい雨だったよね」
男「ああ、そうだったな……びっくりしたよ、ゲーセン出たらお前ずぶ濡れでしゃがんでるんだもん」
男「あん時、景品見に行きたいって言ったんだよなお前」
男「斬新な理由でびっくりしたわ」
少年「でも、本当にそれも理由だったんだよ? 自分で取ったやつが飾られてるの見たかったし」
少年「お兄さんと一緒にいたかったってのが、一番の理由だったけど」
少年「どうやったらさみしいのって治るの? って」
少年「それから、キスしたいって言った」男「うん、そうだな」
男「……それを、俺は断ったんだよな」少年「……うん」
男「お前も大きくなったから、言うけどな」
男「二十歳越えた男が中学生、しかも男を……手篭めにするのって、とんでもないことなんだよな」
男「俺もお前も、絶対後悔すると思った」
男「お前がどんなにそうしてほしくても、俺は止めなきゃいけないと思ってた」
少年「うん」
男「そうすることでお前を助けてやれると思ってたんだ」
男「それが正解じゃなくても、あの時の最善だと思ってた……最近までは」
男「俺は自分のしたことが正しかったんだと勘違いした」
男「でも、そうじゃなかったんだよな……男子君が教えてくれたよ、お前のこと」少年「……」男「両親が離婚して、親権を持った父親は海外出張、追い出された母親はお前しかいない家に何度も押しかけてきて」
男「近所にも変な目で見られるし、時には家に帰れなくなるくらいひどくなることもあって」
男「それでも父親は金を仕送るだけ……お前は一人で暮らしてたって」
男「お前、救われてなかったんだな」少年「……うん、家の事情は良くならなかった」
少年「でも、他は……」
少年「お兄さん?」
男「ごめんな、あの時お前を突き放して……何も解決してなかったのに、一人にして」
男「後悔してる。あの時自分のエゴをお前に押し付けたこと」
少年「……やめてよ、お兄さん」
少年「僕は……」
少年「謝らないでよ……どうして謝るの?」
少年「僕は、お兄さんの優しさが嬉しかったのに」男「……え」少年「あの時、お兄さんが僕を大切にしてくれてることも分かってた……」グスグス
少年「大切にしてくれてるから、僕のお願い聞かなかったこと分かってた」
少年「嬉しかったんだよ……お願いなんて何も聞いてくれない母さんと、理由も聞かずにお金だけくれる父さんしか知らなかったから」
少年「でも、嬉しかったけど、さみしいのは治らなかった」
少年「優しいからお兄さんが僕の言うこと聞かなかったのが嬉しかったけど、それでも一緒にいたい気持ちはおさまらなくて」
少年「すごくさみしかった。同じくらい嬉しかったのに」男「……優しいだけじゃ、さみしいのは治らない。か」
少年「お兄さんといると、嬉しさもさみしさも増えると思って……だからあれから、会わないようにした」
少年「お兄さんに、これ以上僕の傍に来てって言うのは無理だから」
少年「さみしいの埋めるために、中二になってからいっつも誰かといるようにした。夜も一人になりたくなかった」
少年「でも新しくできた友達の家にばっか行けなくなって、それで困ってたときに体売ること覚えて……」
少年「あとは、男子が言ったとおりだよ」
少年「がっかりしたよね、こんなどうしようもない奴……いやだよね」男「……お前、さみしいのは治ったのか?」少年「え?」男「体売って毎晩誰かと一緒にいて、もうさみしくなくなったか? ってこと」
少年「……ううん、一緒にいるときはいいのに、すぐまたさみしくなる」
男「そうか」
男「……気付いたよ、俺。やっと」
少年「……?」
男「やっぱり俺は最低のことをお前にした。自分の考えを押し付けて「絶対後悔する」なんて言った」
男「それが当たってたかどうかは分からないけど、お前を助けられなかったのは確実だ」
男「……優しいだけじゃ、だめ、か」
男「やっぱり俺、教師目指すの辞めて正解だったわ」
少年「うん」タタタ男「よしよし、いい子だ」ナデナデ
男「最初に言っておくけど、優しさだけで人を助けられる奴もたくさんいる」
男「そういう技量を持ってる人間だよ」
男「でも俺は技量もないし、自分の言ったことを貫く力もない」
男「しかもお前に教えられて……お前の方が俺よりずっと物を知ってる」
男「そんなバカみたいに情けない俺でも、お前はいいか?」少年「難しいことはよくわかんない」
少年「でも僕、お兄さんがいい。こうして隣にいて頭撫でられるの、凄く好き」
少年「僕、お兄さんが好きなんだ」
男「……俺のせいで、無駄にさみしい思いさせてごめんな」
男「もう体売るのやめろ。ここにずっといてもいい。さみしかったら俺と一緒にいなさい」
少年「命令ばっかり、先生みたい」
少年「ねえ……本当に、それでいいの?」
男「お前がいいなら」
少年「僕、そうしたい。お兄さんの傍にいたい」
男「……何度も同じこと言わせてごめんな」
少年「おにいさ、っ……んぅ、っ」
少年「ふ、あ」
少年「えへへ……お兄さんとキスしちゃった……」男「嬉しそうだな、そんなにいいか?」少年「だって、ずっとしたかったんだもん」男「……ったく、大胆なこと言うな」
男「脱がすぞ」
少年「……っ、本当は、あのとき」
少年「キスしてくれたら、こういうこともしてって言うつもりだったんだ」
男「……そうだったのか」
少年「だって、そのくらいさみしかったからさ」
少年「お兄さんと一番一緒にいられる方法って、これだと思って」
男「俺だって同じなんだからさ」少年「そっか……何かいいね、同じって」
少年「お兄さんとおんなじ、嬉しいなぁ」
少年「ねえ、もっとキスして……ぎゅってして、頭撫でてよ……」男「……いいよ、好きなだけしてやる」ギュッギュ
少年「ありがと、嬉しい」
少年「……ねえ、最後までしようよ」
男「分かった、苦しかったら言えよ」
少年「……っ、あ」ポロポロ男「い、痛いか? 大丈夫か? 抜くか?」
少年「ううん、平気……痛いんじゃなくて、嬉しいの」
少年「お兄さんにしてもらいたかったからさ……」
少年「初めて、ネットで出会ったおじさんとしたときも、そう思ってた」
少年「初めてがお兄さんだったら、すごくよかっただろうなって」
男「……ごめんな、俺がもうちょっとバカじゃなかったら」
少年「ううん、お兄さんはいい人だよ……っ」
少年「謝らないで、お願い……俺のお願い、聞いてくれるよね?」
少年「っあ、あ、そこ……」
少年「それ、いいっ、うぁ、あ」
少年「お兄さん……っ!」
少年「ひぅ、ああっ!」
男子「お兄さん!」男「お、男子君。ひさしぶり」
男子「お兄さん、ありがとうございます!」
男子「あれから少年の奴、ちっとも夜遊びしなくなったんです」
男「そうか、よかったよ」
男子「お兄さんに相談してよかった……あいつもこれで、普通の生活が送れるんだ」
男「男子君は優しいね」
男「あいつ、最近どう?」
男子「何か元気になってます。『やっとさみしいのが治った』とか言ってたな……」
男子「だけど何か、ちょっと幼くなったような」
男「……ありがとう。じゃあ俺仕事あるから、またね」
男「(……さみしいのが治った、か)」
男「(そりゃよかった)」
男「俺はあいつを救えたようだけど……普通の生活は送らせられてねぇな」
男「……男子君には悪いけど、それで良しとしてくれ」
少年「お兄さん、おかえり」
男「ただいま」
少年「ねえ、ただいまのキスしよ。ドラマとかで観る奴」
男「……一生俺がお前を愛してやるから、よその奴のところには行くなよ」少年「そんなの当然だよ」
少年「お兄さんがいれば、俺、他に何もいらないや」
少年「家にも帰らない。だって幸せだもん……」男「(……こいつは俺のせいで、だいぶ真っ当な道から外れてしまったらしい)」
男「(でも今の俺は、それが悪いとは思えない。昔じゃ考えられないことだ)」
男「(しかたない、昔と今じゃ違うんだから)」
男「教授の言葉、やっと本当に理解できたよ」教授『それらしい一般論などこちらの意見を押し付けるのもタブーです』
おわり何か最後のほう回らなくなってきた
実は最初、一部の最後で男が少年に手を出すという方向で書いてました。
スレに書き込んでるうちに、手を出さない方がいいなと思って書き直しました。
なので二部は書き溜めていたやつじゃなく、リアルタイムで書いてたやつです。思ったより時間かかってしまった
今から寝ますおやすみ
非常に!
乙
ホモネタがすごいくどかったが心は暖まった
こういうのをただのホモだと馬鹿にしたくはないなぁ
おお~!なんだか一気に読んじゃった!
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過去のコメント
名もなき乙女
2013年 12月 04日
なんだかすごくよかったわ
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